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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)2392号 判決 1953年10月06日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人及び弁護人伊東正雄の上告趣意は、後記のとおりであって当裁判所はこれに対し次のとおり判断する。

被告人の上告趣意について。

論旨は、事実の誤認並びに量刑の不当を主張して寛大な処置を求めるというのであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人伊東正雄の上告趣意第一点について。

記録を調べてみると、被告人は共犯者藤川春芳外一名と共に共同被告人として起訴されたところ、第一審第一回公判期日に被告人の弁護人が出頭しなかったため、被告人に対する弁論は分離され他の二人の共同被告人についてのみ証拠調を終り結審されたが、本件被告人については第二回公判期日に審理が行われたこと所論のとおりである。しかし、第一審の裁判官が前記共犯者等の公判審理により被告人に対する本件事件の内容に関し知識を得たからとて、そのこと自体は裁判官を被告人に対する本件事件審判の職務の執行から除斥するものでないこと刑訴二〇条各号の規定により明らかであると共に、第一審の裁判官が事前に事件の知識を有した一事をもって不公平な裁判をする虞があったものと速断することはできず従ってその一事をもって忌避の理由があったものとすることもできない(本件につき検察官はもとより被告人又は弁護人からも忌避は申立てられなかった)。そして、判決裁判所の裁判官がその職務の執行から除斥されず且つ忌避の理由もない場合には、その裁判官のした審理判決を目して憲法三七条一項にいわゆる公平な裁判所の裁判でないということのできないことは、当裁判所大法廷判決の趣旨とするところである(昭和二四年新(れ)第一〇四号同年四月一二日大法廷判決判例集四巻四号五三五頁参照)。それ故、論旨は採用できない。

同第二点について。

論旨は、量刑不当を主張するものであって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって、刑訴四〇八条、一八一条に従い、裁判官全員の一致した意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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